30.菊川茂さん(伝統とロマンの縄が池・夫婦滝)

各地に個性豊かで魅力あふれる湖沼は多いが、この地で生まれた私にとっては龍神伝説を秘めた縄ヶ池が最高である。「池に石を投げると天気が急変する」「毎年、井波の太子伝にお参りになり、座られた畳がぬれている」等、池の主である龍神についてあれこれと聞かされ育ったせいであろう。

私が縄ヶ池と初めて対面したのは小学生のときであった。谷沿いの山道をどのくらい登ったであろうか、あえぎながら進む中、忽然と視界が開け、池が眼前に姿を現した。突然わき出たような、感動的な出会いであった。龍神にたえず疑問を抱いていたころであったが、その存在を確信させるシチュエーションであった。

縄が池には、次のような龍神伝説がある。千年ほど前の延喜年間のこと、弓の名人であった藤原秀郷(俵藤太)が、近江の瀬田橋で大きなムカデを退治した。そのお礼にと龍からもらった龍の子を越中の城端に持ち帰り、山腹に縄を張って放ったところ、一夜にして池となり水不足に悩んでいた人々を救ったという。いまも池の水は大地に豊かな実りをもたらし、湖畔に建つ縄ヶ池姫社の前では感謝の祈りをささげている人を見ることができる。

池へは、国道304号線から分かれ林道を8キロほど進むが、その途中に落差38mの二条の滝がある。人々はその姿を仲むつまじい夫婦に見立て夫婦滝と呼んでいる。江戸時代の越中の地誌「越の下草」にも「夜に入ば女滝へ落ちかさなりて、一筋に成て流るる」と記されている。夜には夫婦の滝が重なり一筋になるとは、先人のおおらかさ、心意気が感じられてうれしい。最近、滝の下部に小さな滝ができたが、地元の人々はすかさず「滝のこどもの誕生」と大喜びだという。いきで、遊びの心が今も息づいている、そんなエリアである。

伝説の縄ヶ池は高清水山地の山腹、標高830mの地にあり周囲は約2kmある。池の南端は土砂の流入で湿地となっており、ミズバショウが群生している。5月の花の最盛期は特にすばらしく、純白の仏炎包と葉の緑色は初夏の光に映え、人をひきつけてやまない。昭和天皇も昭和44年の全国植樹祭の折にご覧になり、長年の夢がかなったと「水きよき池のほとりにわがゆめのかなひたるかもみずばしょうさく」と詠まれている。湿地には木道、そして池の周囲には小道が整備され、ザゼンソウ、ニリンソウ、トチノキ、ブナ、ヤマボウシなどを観察しながら散策できるようになっている。ゆっくり周囲の草木をめで、野鳥の声を聞きながら歩くと、何かほっと救われたような感じになるのは私だけではないようだ。

一帯は「つくばね森林公園」として整備され散策も容易になった。池と滝、そして眼下に砺波平野の散居村が一望でき、さらに夜には重なりあった夫婦滝や龍神との出会いなど果てしないロマンを抱かせる場所である。

(とっておきの富山、菊川さんは県ナチュラリスト協会長)

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