42.蛇喰の雪山(雪のなかの生活学)

富山県の井口村蛇喰(じゃばみ)は、高清水山系山麓の村である。この村は南北に走る山系の西側に位置し、雪山はこの山麓の谷間を利用して設けられていた。

雪山とは、雪を蓄えておく大きな室の一種であるが、基盤整備が進むにつれ、雪山の基底部は取り壊され、今では杉の林になっている。雪山の構造は基底部が石で30cmほど高く積み上げられ、その足の上に雪を踏み固め、寄せ棟形に雪を積み固めたようである。雪をそのままにしておくと、春のフェーン現象ですぐに溶けてしまうので、雪の上を籾殻などで覆い、さらに茅で屋根を設け、小さな出入口から雪の搬出がなされた。この雪山は村人総出の作業であったが、この雪は氷菓として真夏に売り歩くためのもので、雪山造りは村人が白装束に身を包み作業をした。

盛夏のころに村の女たちは雪箱に雪を詰め、近郷近在へと売り歩いた。「雪はいらんかねー」と声を上げての振り売りではなく、顔なじみの家とか、寺の境内などで売られたようだ。当時の雪売りの許認可は警察の管轄で、雪売り用の木箱には、警察の焼印が押されていた。木箱には、昭和9年の許可を最後に製氷技術の普及とともに、雪売りの姿は見られなくなってしまった。

雪は五穀の精ともいわれ、雪が降るのは豊年の前兆ともいわれた。いまでは豪雪という名で嫌われる存在になっているが、雪国の冬は雪が降ることで営みが行われてきた。そうした事実を否定しては雪国の歴史を築くことはできない。新潟県は富山県以上の豪雪地帯であるが、新潟県の特産に雪達磨がある。これは発泡スチロールの箱に雪達磨を詰め、各地へ宅急便で送るという代物だ。ここで食べた弁当もコシヒカリ米を雪達磨形にしたものであった。

蛇喰の雪山もかつては村の女の大きな収入源であった。したがって、雪が降るとこの村では「銭が降る、銭が降る」と狂喜したようである。雪国の文化には雪を宅急便で送るというたくましい知恵の有無が、雪国の人たちに問われているのかもしれない。

(とやま自然の仲間たち。富山県ナチュラリスト研究会編。長谷川和衛さん)

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