28.埴生雅章さん(自然と歴史の楽しみー倶利伽羅峠)

わたしの家から眺める夕日は、くりから峠に沈む。また、山頂まで通じる道路の源平ラインを車で5分も走れば山中の自然にひたることができる。くりからの山は私にとって最も近い自然である。

15年くらい前、一時、くりから山に通いつめたことがある。自然博物園ねいの里の展示のために、雑木林の写真を撮る必要があったためである。この時は、くりから山の雑木林の四季折々の美しさを堪能した。芽出しから新緑にいたるころは、1日1日と山の色が変わってゆく。その生命感に満ちた風景の変化は、心浮き立つものを感じさせてくれる。梅雨時、全山のしたたる緑が雨と霧に煙るころもよい。秋の紅葉はまた格別である。冬、雲間から差す薄日に光る裸の雑木林も美しい。源平ライン沿いにも美しい林があるが、やはり車を止めて脇道を選び、自然に分け入りたい。山頂から地獄谷にかけては、なだらかな斜面が続き、途中に水田も開けている。山頂手前の源平ライン脇から埴生大池を眼下に見て遥かに能登の宝達山を望む景観は見事である。遠出をするのもよいが、身近なところに自分のフィールドを決めて、足繁く通う自然の楽しみ方もまたよいものだと思う。

山頂にあるお不動さんへの信心から、18年にわたり桜の木を植え続けた人があった。高岡の高木勝己さん(故人)である。八重桜の品種30数種、7,000本。そのうちの約4,000本が今も源平ライン沿いに生育しているといわれる。おかげで、ゴールデンウィークのころにはお花見ラインとなる。雑木林の緑に八重桜の彩りが加わり、くりから山が一番あでやかな姿を見せるときである。

くりからは、また歴史の山でもある。「平家物語」のハイライト、砺波山の戦いが、いわゆる源平くりから合戦である。源義仲がこの合戦にのぞみ戦勝を祈願したのが、西の麓の森の中にある埴生八幡宮である。江戸初期、前田公の寄進によって建てられた社殿は、県内の神社建築としては有数のものであり、国の重要文化財に指定されている。階段下の手水鉢には、くりから山中から引かれた富山の名水鳩清水が注いでいる。その脇には昭和58年の源平くりから合戦800年祭のおりに建てられた日本一の源義仲の騎馬像がそびえ立つ。

埴生八幡宮からふるさと歩道(旧北陸道)をたどってくりから山頂にいたる道もある。じっくり歩いて史跡と自然の双方を楽しもうという方にはお薦めのコースである。

山頂近くの平家の本陣跡、猿が馬場のブナ林の中に「義仲の寝覚めの山か月悲し」の芭蕉の句碑がある。以前訪ねたことがあるが、芭蕉の墓は遺言により滋賀県は大津の義仲寺に木曽殿(義仲公)の墓と並んで建てられている。木曽殿に寄せる思いは尋常のものではなかったことから、芭蕉もきっとこの道をたどって倶利伽羅峠を越えたに違いないと想像している。

(1995年、とっておきの富山。埴生八幡宮宮司)

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