生き物は「生存」と「繁殖」が究極的な目標なので、大型動物より力が弱く捕食されがちな人類は、原始より集団になることで弱さを跳ね返して生き延びてきました。
ここで重要なのは、①人類はもともと万能の神とは程遠いとても弱い存在であること、②その弱さを乗り越えるために集団になることで大きな力を得て生き延びてきたということです。これは、人種を越えて人類の普遍的な特徴と言っても間違いありません。
有史以前、人類は広大な原野を歩き回る狩猟生活をやめて、世界各地の大河沿いに定住して農業を始めましたが、しばらくすると人々が集まって争いが多くなってきたので、社会のルールをつくる必要が出てきました。
ルールを広めるために人類は文字を生み出しましたが、いかんせん決められた内容が権力者だけに都合の良いものだったため、立場の弱い人たちは集団になり闘うことで圧政に対抗してきました。このような争いは歴史が文字に残されてからというもの現代に至るまで程度の大小はあるにせよ絶えることはありませんでした。
現代を生きる僕たちは、こうした人類の本質的な側面が日々の生活のいろんな断面に表れ続けていることを忘れてはなりません。
人間が本質的に弱いこと(だから老若男女問わずあらゆる場面でその人なりに意味のある強さを求める)、集団になることが居心地がいいこと(孤独は耐えられない)。
そして、これらを乗り越えた先にある豊かで安定した境地を夢見て、それに至る途上の苦しみに耐えてきたのが僕達の祖先です。
ところが、どうしたことでしょう。
数千年続いてきたこれら人類の本質が最近揺れ始めているように感じます。
まず、大前提となる「生存」と「繁殖」の重要性が薄れています。
特に先進国では、「生存」についてはまだしも、「繁殖」については人口減少が止まらない状況です。日本の一般家庭では他の子との競争にせり勝って平均点以上となれるよう教育投資に多額のお金をかける親が大半です。また、SEXによる快楽が本来の繁殖と切り離されて利己的・商業的に扱われる始末で、いまや世界的に巨大な産業となりはてています。
次に、人類の万能感。科学技術の進展によりもはやすべての生物ヒエラルキーの頂点に君臨する存在となった人類を「弱い生き物」と評価することはできなくなりました。人間阻害という言葉が死語になるぐらい科学技術が生活の隅々まで覆っています。いまや、他の大型生物に殺される危険を恐れることはなく、むしろ逆に、何らかの手段で彼らを日々殺し続けているのが現代の真の姿です。
さらに顕著なのは、平和と豊かさを背景に、集団主義(ルール)から個人主義(自由)への社会的性格の変遷です。少数者の価値観を受け止める社会とか多様性の尊重というのは、つまりは個人主義の進展です。
学校の先生が大変だと言われて久しいですが、少し前なら先生の価値観を生徒に伝えるだけでよく、重要な共有すべき価値観は先生の信じるもの一つだけですみましたが、個人主義が進展すると一人ひとりの価値観を尊重しなければならないので、必然的に先生は生徒一人ひとりに向き合うことになり多忙を極めることになります。
また、人類の行動性向は集団を好むようにできていて、はみ出しものを嫌う傾向がありますが、それはイジメや孤独を助長します。集団内の規範の拘束が強ければ強いほど集団内の凝集性は高まって強くなりますが、逆についていけない人を弾き出し、いじめることになります。
イジメ対策としてゆるい規範と個々人の価値の受容は必要不可欠な要素です。
さらに、個人主義の進展は、これまで大切だと思われていた社会基盤をじわじわと侵しています。○○崩壊と言われるもののほとんどは、集団が前提となっているもので、例えば、地域崩壊、学級崩壊、家庭崩壊……
このうち、家庭崩壊は、生産年齢人口の減少や虐げられてきた女性の解放など様々な価値観とミックスされて、むしろ時代が求める新しい裏側の側面と言ってもいいのではないかと感じています。
じつは、これで困ってるのは男性陣。とくに集団生活に慣れてしまったオッさん達は職場でも家庭でも居場所がなくなってしまい、これまでの自分の姿を鏡でみて今後どう生きていくべきか悩んでいるようです。
ちなみに、個人主義の世界的な先進地のフランスでは婚外子が60%ぐらいで、もはや「子を育てるのは結婚した夫婦のいる家庭である」といった考え方はごく一部の地域に限られるようです。
世の中は変化し続けています。だけど、あまりにも急な変化に合わせようとしても、これまで経験した過去の記憶を塗り替えられない人は多く、アメリカほどではないにせよ社会の分断が深まっているような気もします。だけど、自らがその渦中にいると、なかなか次の一手も見通せません。コロナ騒ぎと相まってそうした不満が鬱積しているのではないかと少し暗澹たる気持ちになってしまいます。
現在や過去は見えるけど、大切な未来が見えない。見えたとしても行動に移せるだけの勢いは若さがないと起きてこない。富山の人の気質は陰湿なところがあるのでそんな声が聞こえてきそうです。
そんな気持ちをマインドアップし、ポジティブに生きていける環境を整えるにはどうしたらいいか。とても難しい課題だと感じています。
(2021年4月)
ー「ちゃべちゃべ」でとやま心を話しましょうー