38.広瀬誠さん(立山と白山)

(前略)このように、立山にも白山にも、同名の大汝山がある。大汝とは古代日本の神の名で正式には大己貴と書く。だから「白山荘厳講中録」という古い記録には、ちゃんと大己貴と書かれている。

大己貴神といってもピンとこないかもしれないが、別名を大国主ノ神といって、縁結びの出雲の神様だといったら、たいていの人にわかってもらえるだろう。イナバの白ウサギの神話でも親しまれている。後世、インドの大黒天に習合されて、大黒様になってしまった。大黒様なら知らない人はないであろう。

オオナンジノ神が白ウサギを助けてやったのはイナバの気多ノ崎でのできごとであったが、能登一ノ宮は気多神社、越中一ノ宮も気多神社、越後一ノ宮は居多神社で、いまはコタと呼んでいるが古くはやはりケタと呼んでいた。そしてみな大己貴神を祭神にしている。出雲から北陸にかけて、海岸伝いに気多という土地や神社が点々とあるのである。越中一ノ宮は高瀬神社だという説もあるが、これも祭神は同じ大己貴神だ。

(中略)「出雲国風土記」という奈良時代にできた古書をみると、オオナンジノ神が高志の国、つまり北陸にいらっしゃるヌナカワ姫と結婚されたが、その間に生まれたミホススミノミコトという神が出雲の美保崎にいると記されている。私は数年前、美保崎に立って青くうねる日本海のかなたをながめ、ここから船出して北陸へ向かった古代の出雲の人たちをしのんだのであった。

「古事記」を見ると、オオナンジノ神がはるばる高志の国へやって来てヌナカワ姫と結婚された美しい歌物語が載っている。朝廷でできた書物と出雲でできた書物とがぴったり呼吸があっているのである。(中略)

「出雲国風土記」には、オオナンジのことを、天の下造らしし大神とか国造らしし大神と書いている。万葉集には、オオナンジの神が山を造ったと歌われている。天下創造・国土創造、山岳創造の偉大な神として、人々から深く敬愛されているのである。立山の大汝は標高3015m、北陸の最高地点である。従って日本海側の最高地点である。社殿はなくてもいい。この最高峰にこんな偉大な神の名が冠せられているのは、実に愉快なことではないか。

(昭和46年、立山と白山)

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