24.吉野美奈子さん(テロと天使と)

2001年夏。武蔵野美術大学に通いながら勤めたJTBを退職し、貯金をはたいてニューヨークに渡った直後、私はアメリカ史上最悪の自爆テロ攻撃「9.11アメリカ同時多発テロ」ち巻き込まれた。それは、ろくに英語も話せず頼れる友達1人いないのに「ただアートが好き」なだけでひょっこりNYにやって来た私にとって、遥か遠い世界だった戦争を、一気に日常の現実に変えたのだった。

学校にも美術館にも行けない間の唯一の友達は、セントラルパーク前の広場「コロンバスサークル」にある大理石の「天使像」だった。私は毎日のように天使に会いに行き、恐怖に怯えて夜まで泣いていた。そして「いったい何が人々を分けてしまったのだろう?」と考え続け、思った。それが国であれ宗教であれ、世界に「分ける人・壊す人」がいるなら、私は「つなぐ人・創る人」になりたいと。

あのとき、絶望と悲しみの充満する街に、もし「天使像」がなかったら、孤独の底に沈んでしまっていたかもしれない。その頃から私は「人の心に寄り添えるアートを、それを必要とする人達のために創りたい」と思うようになった。そして、その「果てしない夢」に取りつかれて、私は殆どすべてのものを犠牲にして、朝も昼も夜もずっと、時には食べることも寝ることも忘れて、ひたすら作品を創り続けた。

しかし「果てしない夢」はそんなに簡単には叶わない。けれど、夢は「叶う・叶わない」ではなく「追いかけるもの」なんだと私は思う。私たちは、その夢を追うプロセスのなかで、学び・苦しみ・楽しんで、共に成長していけばそれで良い。だから始めよう。勇気を出して誰かに話そう。呼びかけよう。わたしは、この傷つき、分断された世界を、美しく優しいアートでつなぎ、世界のみんなと「平和」を創りたい。どうか、是非みんなに、この夢の仲間になってほしい。

(2021年、パンデミックのNYのスタジオから)

「ちゃべちゃべ」でとやま心を話しましょう