19.無いものよりあるものを


人は、遠くにあるものばかりを慕い、手の届くところにあるものの価値を見失いがちである。けれども、人生の途上にて幾度も思い知らされるのは、身近にあるものこそが、私たちの心を支え、日々を照らしてくれるという事実であった。

富山の人口が100万人を切ったと大騒ぎしている。この地に生きる人々は時代の変化に心を騒がせている。しかし、ふと足もとを見つめれば、変わらぬ山々の稜線、田畑を渡る風、家々の灯り、家族のぬくもりが、静かにそこにある。同じ100万人だった大正時代、私たちは不便と貧しさの中で、互いに手を取り合い、ささやかな幸せを分かち合って生きてきた。今の時代、豊かさは数えきれぬほど増したが、心の奥底で求めるものは、昔も今も変わらぬのではないか。

人は、失って初めてその価値に気づくことが多い。だが、私は願う。どうか、今あるものの尊さを、失う前に知ってほしい。家族と囲む食卓、四季折々の自然、地域の人々とのつながり――それらは、時代がどれほど移ろおうとも、私たちの心を豊かにしてくれる。

遠くを求める心もまた人間の性であるが、足もとに咲く小さな花に目を留めることができるなら、人生はどれほど温かく、希望に満ちたものとなるだろう。今ここにあるものを大切にし、静かにその恵みに感謝して生きていくこと――それこそが、私たちに与えられた最大の幸せであると、私は信じてやまない。