宮本輝さんの新著『潮音(ちょうおん)』は、幕末から明治初期の激動の時代を、越中富山の薬売りの視点から描いた壮大な歴史小説です。この作品は、富山藩出身の薬売り、川上弥一を主人公とし、薩摩藩との複雑な関係を中心に展開します。
薩摩藩との関係
富山の薬売りたちは、特に薩摩藩との交易で重要な役割を果たしていました。薩摩藩は昆布を強く欲し、富山の薬売りたちはこれを薩摩まで運ぶ代わりに、琉球経由で入手される唐薬種を得ることができました。この交易は、長崎から輸入される薬種が幕府の厳しい統制下にあり、種類や量が限られていたため、富山の薬産業にとって非常に重要でした。
富山の薬売りの営業
富山の薬売りたちは、薩摩藩との関係を維持するために、昆布の輸送を続けました。薩摩藩は富山の薬売りたちに、薩摩産の薬やその他の特産品(たばこ、茶など)を売らせることもありました。これにより、富山の薬売りたちは、薩摩の薬も売るようになり、双方の利益を増やす商法を展開しました。
歴史的背景
『潮音』は、黒船来航から始まる幕府の危機、明治維新、そして日本の近代化の幕開けを描きます。川上弥一は、薩摩藩が幕府に対抗するための秘密を知ることになり、これが物語の重要な転換点となります。宮本輝さんの作品は、歴史ロマンと人間の生きる意味への深い問いかけを融合させ、現代日本人にとって「羅針盤」となる大長編です。
著者からのメッセージ
宮本輝さんは、この作品を10年がかりで書き上げたと述べています。彼は読者に、薬売りたちと幕末・明治の長い旅を楽しんでほしいとメッセージを残しています。
作品の特徴
『潮音』は、司馬遼太郎さんの作品群を彷彿とさせるような歴史ロマンを展開しつつ、人間の生きる意味への深い問いかけも多く含んでいます。特に、第二の開国(グローバリゼーションや通貨変動)にさらされる現代日本人にとって、重要なテーマを扱っています。宮本輝さんの文学スタイルが色濃く反映されたこの作品は、読者に多層的な思考を促すものです。
このように、 『潮音』は、歴史的背景と人間のドラマを織り交ぜた、豊かな物語が広がる大河歴史小説です。読者は、幕末から明治初期の富山の薬売りの世界に没頭し、時代の激動とともに主人公の成長を追うことができます。